arrow_upward
Business

|

2026.1.3

【佐々木紀彦×慶應SFC】AI時代に必要なのは、自分のOSだ。 Alumni#1

PIVOT創業者・佐々木紀彦さんに、慶應SFCでの学生生活とAI時代の学びをインタビュー。4年間で1000冊以上の読書、比較競争から距離を置く考え方、起業と進路の選び方を聞きました。

【佐々木紀彦×慶應SFC】AI時代に必要なのは、自分のOSだ。 Alumni#1のカバー画像

本企画は、慶應SFCに関わる人々の歩みや思考を記録し、社会へ発信していくインタビューシリーズです。SFCで学ぶ私たち学生が、同じキャンパスを経験した先輩たちに「大学での学び方」と「軸のつくり方」など、直接聞いていきます。

その第一回のゲストが、慶應SFCを卒業後、日本一の映像ビジネスメディア「PIVOT」を立ち上げた佐々木紀彦さん。北九州で育ち、SFCで学び、授業よりも読書と内省に時間を使ったという佐々木さんのその言葉には、大学生活の真っただ中にいる人はもちろん、これから進路や生き方を考えていく若い世代にとっても、立ち止まって考えるための多くのヒントが詰まっていました。


北九州のガキ大将と「縦のダイバーシティ」

まずは、佐々木さんの原点である北九州での幼少期から話を聞きました。

――幼少期はどんな子どもだったんですか?

佐々木:小学校までは「ガキ大将」タイプでしたね。サッカーが好きで、スポーツも好きで、勉強もできる方ではありました。

――ずっと北九州で育たれたんですよね。

佐々木:そうですね。北九州市の西小倉小学校から、思永中学、小倉高校とずっと北九州でした。親に「勉強しろ」と言われたことは一回もなくて、「好きなことを極める」という感じで自由に育てられました。中学から高校1年くらいまではサッカーばかりでしたね。

――北九州で育ったことは、いまの感覚に影響していますか?

佐々木:すごくあります。「本物のダイバーシティ」があったと思います。作家のカズオイシグロさんが「縦の旅行」という話をしていますけど、北九州はまさにそれ。ヤクザの息子もいれば、医者の子どもも、タクシー運転手の子も、サラリーマンの子も、同じ教室にいる。

東京には一見ダイバーシティがあるようで、同じ階層の人同士で小さい頃から固まっていて、階層を超えた「縦のダイバーシティ」はあまり感じない。世間が意外と狭い。北九州で「縦のダイバーシティ」を自然に味わえたのは、今振り返ると大きな財産ですね。


「未来からの留学生」に惹かれ、SFC一本で受験。竹中平蔵研究会へ

地方からわざわざSFCを選んだ理由も、気になるところでした。

――そこから、なぜSFCを目指したのでしょう?

佐々木:小さい頃から東京に行きたい気持ちはあって。祖母が東京育ちで慶應が大好きだったので、「慶應に行きなさい」と小さい頃から言われていました(笑)。

高校3年のときにSFCを知って、「未来からの留学生」というキャッチコピーにビビッときたんです。当時はITの最先端で、竹中平蔵先生のような有名教授もいて、メディアに出ている人が教えてくれる。そこが面白そうだなと思って、SFC一本で受けました。田舎者的な発想ですね(笑)。


サークルを辞め、湘南台を離れた——授業より、本と映画の4年間

続いて聞いたのは、慶應SFCでの学生生活です。

――SFCでの学生生活はどうでしたか?

佐々木:最初はサッカーサークルに入ったんですけど、すぐ辞めました。サークルに馴染めなくて。湘南台にも馴染めなくて、すぐ引っ越しましたね。

――どこに引っ越されたんですか?

佐々木:横浜の中華街の近くです。都会の方が好きだったので。そこでバイトしたりしながら……

授業とかそんなにちゃんと出てなかったですね(笑)。

――授業に出ていない時間は、何をしていたんでしょう?

佐々木:とにかく本を読んでいました。4年間で1000冊以上は読んでいます。通学の往復2時間はほぼ読書で、映画館にもよく行っていました。どちらかというと内省的な学生で、集団行動はあまり好きじゃなかったです。

2年の後半からは竹中平蔵さんの研究会に入って、経済学が面白いと思うようになりました。3年くらいからはUSCPA(米国公認会計士)の勉強も始めて、合格しました。実務経験がないので資格は持っていませんが、経済や会計という「ビジネスの言語」を学生のうちに押さえられたのはよかったですね。

「自分は何のために生きるのか」という内省と、経済や会計の学問に打ち込んだ4年間でしたね。この4年間が自分の土台になっているなと今も感じます。


「比較競争に入ると地獄」——交流しすぎないから軸ができる

ここから話題は、いまの大学生へのメッセージへと移っていきます。

――もし、いま大学生としてもう一度SFCに通えるとしたら、自分にどんなアドバイスをしますか?

佐々木:やっぱり「周りを気にせずに自分を見つめる時間」として使った方がいいと思います。今はSNSもあるし、就活も3年くらいから意識して、比較合戦になりがちじゃないですか。

でも、比較競争に入ると地獄ですよね。

――SFCでも、「何者かになりたい」「周りと比べて焦る」という声はよく聞きます。

佐々木:あえて多くの人と交流しすぎないことで、自分の軸みたいなものが4年間でできると思うんですよね。それができると、その後が強い。

たとえば、今だとAIが流行っているからAIをやるのもいいけど、もっと哲学とか歴史とか文学とか数学とか物理とか「普遍的なもの」を学んだ方がいいと思います。そういうものが、人生の指針、軸となる。


「旅に出たらいい」——孤独に強い人が最後にブレない

――「何者かになりたい」という焦りを感じている学生に、どんなメッセージを伝えたいですか?

佐々木:そう思うのはいいことですよね。やりたいことがあるなら何かに打ち込めばいいし、そうじゃないなら「旅に出たらいいんじゃないですか?」。

一人になる時間を持ちやすいのが学生時代です。最終的にリーダーとして成功する人やブレない人というのは、孤独に強い人なんです。孤独の強さは読書で育まれることもあるし、旅で育まれることもあるし、大事な人との別れや失恋で育まれることもある。一人で楽しめるようになるのが大人だと思うので、その作法を身につける時間を使うのもいいと思います。

皆さんには、孤独も楽しめる大人になってほしいですね。その方が、真に深い人間関係を築くこともできますし。


起業は焦らなくていい——軽いアイデアより、人生の問いを

SFCでは、起業やプロジェクトが身近な選択肢として語られます。そのテーマについても率直に聞きました。

――SFCの場合、起業している子も多くて、「自分も何かプロジェクトを起こさないといけない」みたいに思うこともあるんですが、佐々木さんは大学時代、起業についてはどう考えていましたか?

佐々木: 学生時代に起業は……しなかったですね。一回SFCで「起業講座」というのを他の卒業生と寄付講座で作ったことがあります(琴坂将広教授や、Newmoの青柳直樹さん、マザーハウスの山崎大祐さんたちと)。その授業の中で、みんな起業アイデアとか話すんですけど、軽いものが多くて、「こんなことに時間を使うなら、普遍的な学問を学んだ方がよっぽどいいのでは」と思ってしまいました(笑)。

どうしてもやりたいことがあって、「これは行ける!」というものがあれば挑戦すればいいですが、遊びっぽくやるなら、やめた方がいい気もします。起業は勉強になりますが、ビジネスって後からいつでも経験できますので。 

それよりも、人生の意味を問いかけるとか、学問を深く極めるとか、好きなことに打ち込むとか、恋愛をするとか、そちらの方が長い人生において断然価値があると思います。

ちなみに、起業は40代が最も成功率が高いですよ。

――40代ですか!

40代の方が色んな経験があって、人脈も知識もあった方が成功しやすいという統計も出ています。20代でちょっと成功しても、逆に中途半端になっちゃったりするので。よっぽど天才的だったり、どうしてもこれしかやりたくないという人以外は、ちゃんと就職して基礎を学んで、知見を広げた上で起業した方が成功しますし、規模も大きくなりやすい。特に日本では、20代で起業して大きくなったのは、藤田晋さん(サイバーエージェント)など数えるくらいですよ。

――なるほど……。佐々木さんが(キャリアの選択で)ゴールドマン・サックスではなく、最終的にメディアを選んだのはなぜですか?

佐々木: 向き不向きですかね。やっぱり金融ってお金が好きな人たちが集まるところなので。私はお金にそんなに興味がないというか、どちらかというとアイデアとかコンテンツの方が好きだなと思ったので。

大きく言うと、人は4タイプに分けられると思っています。「お金が好きな人」「人が好きな人」「モノが好きな人」「コト(コンテンツ)が好きな人」。 自分がどれに向いているのかを考えてみるのはおすすめです。


AI時代の学び:「外付け」ではなく、自分のOS(原液)を濃くする

――いまのSFC生、日本の大学教育全体について、どんな課題を感じますか?

佐々木:先生が面白くないってことですかね(笑)。今は変わっているかもしれないですが、本気で勉強する雰囲気が日本全体であまりないですよね。

AIですぐ答えが出る時代だからこそ、自分の頭の中に知識や教養がないと、AIを使いこなせない。AIを外付けハードディスクとして使うのはいいけど、自分の「OS」がしっかりしていないと意味がないんです。

すごいIPがあれば、それをAIで10倍、100倍にできるけど、元(原液)がしょぼかったら100掛けても小さいままです。いかに自分の「原液」を濃くするか。その一つが読書ですね。

――おすすめの本はありますか?

佐々木:「どんな仕事をするのか」を考えるにあたり、SFCにいた福田和也さんの『価値ある人生のために』はおすすめです。あとは、イェール大学のウィリアム・デレスウィッツが記した『優秀なる羊(Excellent Sheep)』も名著です。読書は、時空を超えて、賢人と1対1で語り合える贅沢な時間です。時間に余裕のある学生時代にこそ、人生の師匠と思える著者の本を読みまくって、血肉にするといいと思いますよ。

SFC-PORTALへのコメント

インタビューの終盤、私たちは自分たちの活動——慶應SFC卒業生のストーリーを発信する「SFC-PORTAL Media」や、キャンパスのどこでもドアを目指すアプリ「SFC-PORTAL」/コミュニティ「SFC-Quve」——についても紹介しました。

――マネタイズや継続性については、まだ試行錯誤していて……。

佐々木:(画面を見ながら)へえ、いいですね。これ、学生が起点でやるのがいいですよね。大学や教授陣を巻き込むのは動きが遅くて大変なので、学生の方が気楽にできるし、応援もしてもらいやすそうですね。

――マネタイズや継続性については、まだ試行錯誤していて……。

佐々木:それ自体を起業のテーマにしたら面白いんじゃないですか。2000万、3000万くらい稼いで、次の世代に引き継いでいくような。琴坂先生や國領先生なら、協力してくれるのではないでしょうか。ピッチしてみるといいと思います。


インタビューを終えて

インタビューを通じて強く感じたのは、「AIが何でもやってくれる時代だからこそ、自分のOSをどう育てるかがすべて」ということでした。
サークルを辞め、湘南台を離れ、授業にもあまり出なかった一方で、1000冊の読書と内省を積み重ねていた佐々木さんの学生時代は、「比較競争から降りて、自分の密度を上げる」という選択の連続だったように思います。

「比較競争に入ると地獄」「原液を濃くする」「孤独に強くなる」というキーワードは、SFCで過ごす私たちの4年間をもう一度デザインし直すためのヒントになりました。
何を足すかだけでなく、何から距離を取るのか。その視点を、これからのSFC生活の中で実験していきたいと思います。


インタビュアー
林賢真/大竹伶奈/入部英成/吉川凪/